Martintonの日々

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テツ ー1

それなりのむかしむかし。
リーチ君(父)のスクーターの後ろに乗って夜明け前、魚市場の帰りに子犬を貰いに行きました。大好きだった愛犬の悲しみから抜け出す為に。
父はかまぼこの素材の吟味、確保のために毎朝魚市場の競りに出かけていました。ヤマカの屋号(祖父上田勝治の時代から使っていた屋号でヤマカは勝治のカ)入りの帽子をかぶり毎午前2時起きでスクーターにまたがるのです。僕もこの日の他にも、覚めぬ目をこすり何度か連れられて行ったものです。帰りの長浜屋台での休憩が楽しみでした。白熱球とリーチ君の横顔、炒ったグリンピースを不思議に好んで摘んだ記憶が残ってます。
さて、素朴な風貌?に子犬はすぐに『テツ』と名付けられかまぼこ屋さんのアイドルに収まりました!足は将来大きな成犬を予感させる太目でしたが僕が軽く指を出すとすぐ転んでいました。「お手お代わり」も「お座り」「おあずけ」も無難にマスターして、愛らしさのかたまりが走り回っていました。
しかし、「テツ」と呼ぶと時折何故かソッポを向き知らぬ顔で自分の世界に走り去ります。こちらもそれを見据えて逆にわざとのタイミングで冷たくすると、勢いスリ寄り甘えに来たりと子犬ながらの少しアマノジャクな一面も早めにみんなの中に浸透して行った理由のひとつでした。
血気盛んな思春期を迎えると果敢に近所の縄張り争いにも参入しまた。が、毎度勢いだけでからっきしケンカは駄目でした。それに初めての恋でもらったのは失恋の痛手と脱毛症だったのが笑えます。
彼女にまっしぐらの頃、帰宅が遅すぎて仕方なく締め出されました。外で寝る器量などと縁遠い彼は必死に工場の大きな木戸を一晩中噛んで家の中へ入ろうとしていました。僕が「ガリガリ」や体当たりの「ド〜ン」悲しそうな「ク〜ン」の鳴き声物音に気付いて木戸のところへ行くと、姿を見つけた喜びを満面に、彼が噛み砕いた木戸の隙間から顔半分を必死に出し、置かれた状況を愛くるしく訴えてました!後1時間もすれば木戸が開かれる6時過ぎなのに…!
又何時の日かに  つづく


0511

2008.05.11

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