Martintonの日々

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初めての ー1

故郷での一枚の写真から開いた小窓です。

そう〜あれは一年間女子のいない空気に戸惑い、やっと男子高の気楽さに馴染み始めた、高校2年の頃の事です。右用のギターを左に持ち替え、弦はそのままに器用に弾く女性SAさんと[喫茶照和](当時福岡のアマチュアバンドの大切な発表の場)の裏手、楽屋兼練習場でもある階段の踊り場で出逢いました。

一風変わった物腰の人でしたが何故かとても不思議な程に馬が合い 、二人で居るといつも知らぬ間に、時間を使い果たしていました。しかし少々意地っ張りと頑固な互いの側面が触れ合うと、それまでの盛り上がりを簡単に破棄して別れ帰る事も度々でした。ひどい時は綿密に何日も前から二人で計画していた志賀島巡りを、出発の朝のささいな口論で止めにした事もありました。

互いの短気を競うのも、それはそれで成立していた気がします。しかし二人の仲はそんな事を繰り返しつつも少しづつ深まって行ったのです。ギターを重ね鳴らし二声のハーモニーにトキメキ、僕より遥かに上手い彼女の爪弾きに歌を絡めたりと、正に青春の様相でした。がしかし他人に聴いてもらう前提を求めてなかったから彼女とステージに立つ事はありませんでした。

そして未だかつて無い人生最長の長電話も彼女との付き合いから生まれました。
生家の蒲鉾工場の1日が終わりに近づいた何気ない、ある日の夜9時頃から始まりでした。工場入口のアルミの扉近く(愛犬テツが僕の帰宅を知るといつも蹴り開けていたドアです)、注文伝票が壁一面に賑やかにぶら下がっていた真下の机の上、タイムレコーダーとその横の鉛筆立てや新品の伝票入れの前に、黒いダイヤル式の電話がありました。

1日の大切な役割を終え、僕の自由が許される時間帯でした。その日も「今何んしよったと〜」からの始まり。僕の横に来て遊んでもらいたそうに、尻尾を振るテツの頭を左手で撫でながら、照和で演奏していた気になるバンドの話や人間観察、そして互いの好みの曲や声質の海外アーティスト論を白熱させて行き、諦めた愛犬が尻尾を下ろし塒に戻って行く後ろ姿がありました。

工場で後かたづけをしていた職人さん達に視線を注がれ気兼ねしつつも、受話器は掴んだまま。やがて工場の電気が消され、先程まで機械のノイズに彼女の声が遠くなると、左の手の平で受話器の喋り口を囲んで話していたのが、嘘のように静まり返った蒲鉾店内。
最後に残っていたお袋が「いい加減にしなさい!」と言い放って二階に上がって行きました。静寂に包まれ僕の声が周りに響き、右耳からは彼女の声が僕の身体に響いていました。話は必然二人の空間にアレコレ着色を楽しむ時間へと、そして止めどなく湧き出す話題に、あっと云う間に真夜中2時を柱時計が告げました。それでも途切れない話、終わりにしたくない衝動に受話器を置いて結局は深夜のデートに及んだ日。

しかし逢う毎に、話し込んでいるのに何か分からない壁が二人の間にあるのに気付き戸惑い、しかし結論は手さえ握っていないしキスなんてと〜んでもない!関係に問題があると判断。
そして一念発起!二人の状況打開の為のファーストキッス敢行プランを立ち上げる事にしたのです☆☆☆

【つづく】


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2008.11.28

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