Martintonの日々

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エスの生き方

私がこの世で呼吸し始めた頃、生家には既に『エス』と云う名の雑種ながら、優秀な警察犬の血を受け継いだ、強く優しく穏やかな成犬が住んでいました。幼い子供(私や兄)の煩わしい遊び相手も嫌がり逃げる事なく付き合ってくれました。
ちまたは正に戦後の混乱期、治安が悪く進駐軍アメリカの兵士が我が物顔で町を闊歩していました。彼はとても立派な番犬でした。決して家の中では寝ず、生家の玄関代わりの車庫入口の軒下が彼の塒でした!この位置で外敵をことごとく追い払ってくれたのです☆米兵にひつこく付きまとわれた私の母の窮地を幾度も救ったとの事です。不埒なやからが我が家に一歩も足を踏み入れる事のないように体を張って阻止してくれてたのです☆
しかし彼は決して人間を噛まない事でも知られ認められていました。威嚇の迫力だけで十二分だったのでしょう。しかるに一方では学校の行き帰りに通る小学生の人気者で、とても可愛がられる存在でもあり、ある意味他面性をコントロール出来る不思議な犬として人に映っていたようです。だがしかし何と云っても圧巻は『ピコとルミ事件』でした。
近くの酒屋で飼われていた二匹の犬が、タッグを組んで勢力拡大の縄張り争いを『エス』にしかけて戦いを挑んだのです。がしかし、ことごとく撃破され、そのはらいせ?に我が家の住人が酒屋の前を通ると、闇雲に襲うようになったのです。スクーターで一瞬通るだけのリーチ君(父)にさえも飛びつき長靴に歯形を残した程です!それが学校にも上がらない幼い子供なら(私の事です)ひとたまりもありません!
『保育園』の行き帰りには必ず酒屋の前を通らなければいけません。その酒屋が近づくといつも、二匹の様子を伺いひたすら逃げ駆け抜けるのです!が、何度か彼等の追撃を払いきれず捕まってしまう事がありました。二匹に襲われ蹂躙されている私を目撃した近所の人が駆け足で私の家に「あんたんとこのまさとっちゃんが(私の数多い呼び名の一つです)犬に殺されようよ!」と 緊急報告!
しかしその時にはいち早く状況を察知した『名犬エス☆』が家を飛び出し私の救出に走るのです!その間わずか、あっと云う間に『ピコとルミ』を蹴散らし、噛まれた私の傷跡を優しく舐めてくれている所へ、やっとお袋達の到着と云う具合でした。今でも襲われている私の所へ救出しに駆けてくる気高く力強い『エス』の吠える声と四つ足のカサカサと地面を駆ける音が耳に残っています。

ある寒い冬の朝、家の軒先で毛布にくるまって彼は天国に召されました。老衰と聞かされても私は、一日中泣いていたみたいです。彼のお墓を川沿いの空き地に造りました。

○さて予告編です♪いつ本編が登場するか未定です♪
そんな悲しみの日々の私を見かねたリーチ君が、ある日「犬ば貰いに行こう」と言い出しました!そして我が家に来たのが後の我が愛すべき『迷犬テツ君』だったのです☆


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2008.04.26

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